だらし》のない父親の愛情がさうさせたものらしい、子供にしては可愛気のない矜《ほこ》りのやうなものが、産れつきの剛情と一つになつて、それをどこまでも枉《ま》げまいための横着さといふものがあつて、何うかすると、現実的な利益の外には、どこまで掘つて行つても、他人の愛情の手に縋《すが》るとか、飛びつくといつたやうな可憐《いぢら》しさは微塵《みぢん》もなかつたが、決して卑屈ではなかつたし、柔順では尚更なかつた。後で段々わかつたことだが、圭子と同じやうな商売屋を既に三十軒も引き廻はされて来たくらゐだから、彼女はどこに落ちついて眠り、誰の手に縋つていゝか解らなくなつてゐるのに無理はなかつたが、それは環境が段々さうさせた事には違ひないとは言へ、そんなに多勢の人に見切りをつけられるのには、理由がなくてはならなかつた。
圭子もこの子の行先を考へると、ちよつと恐しいやうな気がした。わづか十年しか此世の風に曝《さら》されてゐない咲子は、或る意味で既に一つの完成品に凝《かた》まりかけてゐるやうに思へたが、年と共に其のなかにあるものが成長して行くことを考へると、何をされるか解らないやうな不安を感じて、半分厭気が
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