ふと、
「だつて此方がお母ちやんでせう。」
「でも、をぢさんといへば可いの。をぢさんには沢山子供さんがあるのよ。」
「あゝ、さうか。ぢやをぢさんとお母ちやん結婚してないの。解つた。ぢやをぢさんに奥さんがあるんだ。」
「ないんだ。」
「ないの! 死んぢやつたんですか。」
「さうよ。」
「あゝ解つた。ぢやあお母ちやんは……。」咲子は独りで呑み込んで、
「ぢやをぢさん先刻《さつき》家《うち》から来たの。こゝにゐるんぢやないの。」
「ゐることもあるし……。」
 咲子は圭子を指して、
「お母ちやん今に棄てられる。」
「馬鹿!」
「さお早くお寝なさい。蒲団出してあるから、自分で敷いて……。」
「むうん、眠くないんです。」
 蓮見は何か気味悪さうに、しみ/″\子供の顔を見てゐたが、むづと頭を掴《つか》んだ。
「抽斗頭《ひきだしあたま》だね。おれもさうだが……。鼻も変だね、こゝんとこが削《そ》いだみたいで。」
「をぢさんの鼻だつてさうですよ。」
 咲子は負けない気で主張した。

 日がたつに従つて、この子供の特異性が次第にはつきりして来た。貧乏でも、別にさう悪くは育つてゐないどころか、事によると乱次《
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