もう何もかも白状してしまいます。わたしはまあなんという人間でしょう。この年をして、人に物を教える身でありながら、人もあろうに自分の最愛の子供に罪をきせて、今まで白ばっくれているなんて。わたしです。わたしがあの女を殺したのです。あの女を過《あやま》って殺したのはわたしです。すぐにせがれを放免して、代りにわたしを縛って下さい。判事!」
どんなに法律ばかりつめこまれた頭だって、このような劇的な告白をきいて平気でおられるはずはないと思われるが、篠崎予審判事は少しも驚いた様子も、感動した様子もない。まるで、ちゃんと予期していたような顔つきである。
「では玄関で殺した死体がどうして台所にうつぶしになって、しかも背中に小刀がさしてあったのですかね。林の陳述には間違いはありますまいが?」
原田教授は、もうすっかり落ちついて語り出した。口元にはずるそうな微笑さえ浮んでいる。
「その男の陳述は正確です。わたしが、犯跡をくらますために、死体を台所へひきずっていったのです。そうしておけば、誰か家を見にくる人があるにきまっているから、その人に嫌疑がかかると浅墓な考えをおこしましてね。屍体はかたくなっていたの
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