もなくうなだれている。牢獄か癲狂院《てんきょういん》か、どの道我が子は助からないのだ。彼の頭には陰惨な人生の両極がまざまざと描かれた。暗い考えが夜のように彼の心をとざして来る。彼はおそるおそる口を開いて、まるで腫物《はれもの》にでもさわるように、最後の質問をした。
「ではもう一つだけおたずねしますが、せがれはどのくらいな罪になるでしょう?」
判事は鼠《ねずみ》を生け捕った猫が、それを味わうまえに十分|弄《もてあそ》ぶときのように、ゆっくりと、落ちつきはらって、まるで他人事《ひとごと》のように語った。
「そうですなあ、過失罪になればたいしたこともありますまいが、謀殺となると――まあその方が可能性が大きいと見なければなりませんからねエ――謀殺となると、まず、九分通り死刑ですかね。」
「判事!」と原田教授は突然、ばねのように立ち上って叫んだ。
三
判事は多少の注意力をおもてに現わして膝《ひざ》をすすめた。
老教授の一時の昂《こう》奮は、しかし「判事!」と叫んだ一語のために、すっかり消えてしまったものと見えて、またもや、菜葉《なっぱ》のようにしおれてしまった。
「判事、
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