ぼせてしまって、前後のわきまえもなく、あわてて外へ飛び出したのだそうですが、過失とは言いながら、一人の人間を殺した以上は無事ではすむまい。それに、他人《ひと》がきいて果して過失と信じてくれるかどうかもわからぬ。これは何も知らぬ顔をしているに限ると考えて、死体はそのままにしておいて、音のしないようにそっと戸をしめ、何食わぬ顔をして家へ帰って寝たというのです。人間というものは、こうした場合には、えて常識では考えられぬようなことをするものです。明くる朝、林が空家を見に来て、自分が誤って殺した女の死体が発見された時には、御子息も、あやしまれてはならぬと思って、現場へ行ってみたということです。ところが、その日の夕刊でその事件が報道され、無辜《むこ》の林が有力な嫌疑者として拘引されたという記事を見ると、いてもたってもいられなくなって、自首したのだというのです、御子息の自首の内容は、ざっと今申し上げたとおりなのですが、どうですね、この辻褄《つじつま》のあった陳述に御子息の精神の異状が認められるでしょうか?」
話し手も聴き手もハンカチをとりだして額の汗をふいた。
「これで大体おわかりになったと思いま
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