空いてから、毎晩|就蓐《しゅうじょく》前に、眠《ね》つきをよくするために空家の中へはいって体操をしておられたということで、その晩も、九時頃、玄関の戸をあけてはいろうとすると、どうしたものか、錠もおりていないのになかなか戸が開かない。やっと金剛力を出して開けると、そのとたん[#「とたん」に傍点]に、戸の内側でひどい物音がしてびっくりしたということです。中へはいって見ると、玄関の壁際にもたせかけてあった鉄の古寝台が、戸を開ける拍子に、倒れたための物音だったというのですね。薄暗い軒燈の光ですかして見ると、なんだかその下に黒いものが圧しつぶされているようなので、寝台をもち上げて見ると、その下に、あの女の死体が横たわっていたというのです。あの太い鉄の框《わく》で頭から胸部を滅茶滅茶に打たれて、きゃっ[#「きゃっ」に傍点]ともすん[#「すん」に傍点]とも言わずに即死してしまったらしいのです。これは大変なことをしたと思ったが、それでもまさか即死したなどとは思わないものですから、急いで抱き起そうとすると、身体はもう氷のように冷たくかたくなって、まったく事切れていたということです。そこで御子息は、とりの
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