\分に立証してゐることである。併しながら、この影響を過大視することも、ひとしく間違ひである。バツクルの文明史や、テエヌの芸術学に対して、私は十分の敬意を払ふものであるが、これ等はいづれも、社会に及ぼす自然力の影響を過大視してゐるものと見做さねばならぬ。そこには必要欠くべからざる分析が省略されて、自然力と社会との間に、粗笨な、不精密な、直接な方程式が設けられてゐる。テエヌがフラマンの絵画とその地質との関係を論じてゐるが如き、一見実に科学的な見方のやうであるが、その実、極めて都合のよい独断によつて議論が進められてゐることを吾々は発見するのである。又、彼が、イギリスの文学史を叙述するにあたつて、種族、時代、地理的環境等を過度に重要視してゐるのも、甚だ独断的であつて、文学の変遷は、左様な僅かばかりの条件によつて直接に決定されるものでは決してないのである。
しかも自然的条件は、一定の社会の特色を決定するものではあるけれども、自然的条件そのものは、極めて徐々にしか変化しないものである。地質発達史は、数万年、数十万年乃至数百万年の時間を包含することによりはじめて成立するのであつて、数百年、数千年位
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