如何なる方法を適用すべきかを明かにし、極く大づかみにこれが応用を試みたのである。しかし、私は、私の頭の中に考へてゐることを残らず発表し得なかつたし、発表した部分も多少明確を欠いてゐるかも知れぬと思ふ。何よりも私は、私の考へを裏づけるやうな材料を蒐集し、これを適当に整理する余裕をもたな過ぎた。そして、大部分を先人の、特にテエヌの説の祖述で充した。私は、文学の研究が、たゞ個人々々のまち/\の意見の発表に終始すべきものではなくて、それが科学となり得るものであることを、たとひおぼろげにでも、読者に信じて貰へれば十分である。
こまかしい部分、特に方法論の応用の部分には、誤解やまちがひが多分にあることゝ思ふ。併し、それは、この試みがまだ極めて幼稚な段階を進んでゐるに過ぎない事実に免じて、見のがしてもらへるだらうと期待してゐる。
私は科学の万能を信ずるものではない。科学的認識の限界を認めることに於ても人後に落ちるものではない。けれども、文学が科学的研究の対象になり得ないと考へる論拠を何一つ見出すことができないのである。文学作品を措いて文学はない。文学とは個々の文学作品を素材としてつくられた概念で
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