ゾラが自然主義小説を『実験小説』と呼んだやうに、テエヌは自然主義の芸術論を『実験美学』と呼んだ。彼は古い美学と実験美学との相異を次のやうに言ひあらはしてゐる。
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『古い美学は、先づ第一に美の定義を与へ、美とは道徳的理想の表現であるとか、美とは不可見のものゝ表現であるとか、美とは人間のパツシヨンの表現であるとか述べ、そしてこれを、法律の条文のやうに祭りあげて、それから出発して、或る作品を容《ゆる》したり、罰したり、戒めたり、指導したりしたのである。……私がこれから試みんとする近代的方法は、人間の作物、特に芸術作品を、事実若しくは製作物と見なして、その特色を指摘し、如何にしてかゝる特色が生じたかを研究するに過ぎない。それはゆるしたり、禁じたりはしない。たゞ認証し、説明するだけである。』
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これでわかるやうに、自然主義文学の理論、方法は、自然科学のそれと正確に同じであるといはねばならぬ。
結語
以上に略述したところによつて、私の試みはほゞ読者にわかつたらうと思ふ。
私は文学は科学的に、方法的に研究し得ることを前提として、
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