「へる。それは、ロマンチスムの文学が、新興の、若い、革命期のブルジヨアの文学であるといふのと同じ意味に於てゞある。
自然主義文学を発生せしめた社会的環境の特色を挙げると、ブルジヨア階級が成熟して来たこと、社会の物質的生産力が増加し、富、資本が社会の動力として最も重要な地位を占めて来たこと、自然科学が急激に勃興して来たこと等であるといつてよい。
ブルジヨア階級が成熟して、その社会的地位が安固となると、若い時代の情熱が消えて来るのは当然である。自然主義の文学がロマンチスムの文学に比べて情熱的でないのはそこに原因の少くも一半をもつであらう。ブルジヨア階級には、もはや戦ふべき権威も敵手もない、そこで翻つて自己を観察し省察するやうになつて来る。自然主義文学が個人主義(正しくいへば自己批判)の文学であるといはれてゐるのはそのためでもあらう。
勃興期のブルジヨア階級にとつては、前途に薔薇色の世界が展望されてゐたことは既に述べたとほりである。然るに一朝彼等が支配階級の位置に上つて見ると、以前の希望は何一つ現実化しない。自由は一部の大資本家に独占されてしまつてゐた。多数者にとつては、自由の夢は、一
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