Iが『詩学』に於て精密に定義した史詩、抒情詩、牧歌、悲歌、警句詩等の別は一掃された。これ等の形式は作者が思ふまゝに混用して差支へなくなつた。用語、語調等に於ける古典文学の中庸主義は破られて、激越な語句、詩法上の破格が自由に許された。ユゴオの作品を見ると言葉の洪水といふ感じがする。かくの如き文学に於ける自由主義に最もふさはしい文学の品種は小説である。小説には面倒な約束が少しもない。ブルジヨア社会に於て、小説が一躍文学の主流的地位を占めて来たのは決して偶然ではないのである。
 以上は、もとよりロマンチスムの文学の全特色を列挙したものではなくて、単にその本質的特色を挙げたのに過ぎない。ヨーロツパの各国に前後して起つたところのロマンチスムの文学運動には、民族や国土やその他無数の条件によつて、それ/″\異つた色彩が見られる。私は、それ等を否認したり、閑却したりしてゐるのではない。たゞ、こゝでは、それ等を抽象し去つて、たゞ、当時の政治経済上の変動が、文学に如何なる変化を決定したかを例証的に述べて見たに過ぎないのである。
 
         四

 自然主義の文学は成熟期のブルジヨアの文学であると
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