泣Tイユ宮殿の中を通るときには始終帽子を手にもつてゐたといふことである。その結果彼等は、常に上品な婉曲な言語で語り、相手に不快な感じを与へるやうなことを避ける技巧に長じてゐた。かくの如き貴族的精神は、実に、この時代の宮廷内に於て完成されたのである。
かゝる人々が、彼等にふさはしい快楽を求めるのは自然の勢である。彼等の趣味は彼等の人品と同様に高貴であり、典麗であつた。而して、当時の芸術作品はすべて、この趣味からつくられたのである。厳粛、荘重なプツサン、ルシユアール等の絵画、壮麗華美をつくしたペロオル及びマンサール等の建築、ル・ノオートルの設計にかゝる雄大なる庭園等がそれである。その他、当時の家具服装室内の装飾等に、すべて此の特色はあらはれてゐる。ヴエルサイユ宮殿を飾つてゐる神々の像、整然たる並木道、神話を象つた噴水、広々とした精巧な泉水、建築の飾りのやうに巧みに刈られた庭内の樹木等は、当代の趣味の精髄をこらした傑作である。併しながら、これを最もよくあらはしてゐるものは、当時の文学である。当時ほどフランス文学界の巨匠が雲集してゐた時代はない。ボシユエ、パスカル、ラ・フオンテーヌ、モリエー
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