カ活(la vie de cour)といふものが生じ、フランスがその中心となり、ルイ十四世に於いてその絶頂に達したのである。
 かくの如き形勢の変化は、当時の人心に如何なる影響を及ぼしたか? 国王のサロンは国内に於て最も善美を尽したものであり、そこには、万人の亀鑑たるに恥しからぬ最も選ばれた貴族たちが出入する。この貴族は自ら生れながらにして高貴な人間であると考へてゐる。彼等は名誉を重んずること生命よりも強く、少しの侮辱に対しても身命をすてることを辞しない。ルイ十三世の時代に、決闘によつて殺された武士の数が四千にのぼつたのを見てもそのことはわかる。彼等の眼には身命の危険を軽んずることは、貴族の天分なのであつた。しかも彼等は封建精神の衣鉢を襲いで、国王を彼等の生れながらの主として尊敬し、国王のためには身命を鴻毛よりも軽しとした。ルイ十六世が処刑されたとき、彼の身代りにならんことを志願した武士の数が少くなかつたことなどもこれを証明してゐる。
 それと同時に此等の宮臣は典雅上品であつた。国王自ら彼等に模範を与へたのであつた。ルイ十四世は侍女に対してさへも脱帽したといふことであり、或る公爵はヴエ
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