@ 三
私たちは、一定の自然環境の中に生れて、私たちの意志と独立した自然条件を課せられることは前述のとほりである。併しながら、私たちの意志と独立に、私たちの生れない先から存在してゐるものは、たゞ自然的条件だけではない。そのほかに一定の経済関係がある。私たちは、生れおちると、否応なしに、一定の経済関係の中に入り込み、是が非でもそれに適応して住まねばならぬ。たとへば、元禄時代に江戸に生れた者と大正時代に東京に生れた者とは、同じ自然的環境に生れながら、まるで異つた経済関係の中に生活しなければならぬが如くである。
かくの如く、経済関係を時代によりて変化せしめる根本の力は社会の生産力であると解せられてゐる。生産力が一定限度まで進むと、従来の経済関係が維持せられなくなり、より高度な生産力に適応する経済関係が生じて来るのである。例へば人類が狩猟によりて生活してゐた原始時代には生産力は極めて幼稚であり、且つ狩猟の獲物は極めて不定であつた。かういふ時代には、各人がめい/\規則的に自己の衣食住に責任をもつわけにはいかない。そこで一部落の住民が共産体をつくつて、所謂原始共産制が出現する。又機
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