ってのぞいて見ますと、光子さんが布団を着てやすんでおられる様子でしたから、二度ばかり呼んで見ましたが返事がないので上《あが》って見るとあの始末なのです。妾《わたし》は腰を抜かしてしまってしばらくは言葉も出ませんでした。」
「被害者の身許《みもと》は不明であるが、近隣の人々の話を総合したところでは、本年四月まで浅草雷門前のカフェ大正軒に女給をしていたということである」
「記者は逸《いち》早く大正軒を訪《と》い生前被害者を知っていたという女給|百合子《ゆりこ》についてただすと、百合子は『まあ光子さんが人手にかかって?』とおどろきながら語った。『あの人は人にうらまれるようなかたじゃないのですけれど、こちらに勤めておられる時分から色々なお客様と関係があったようですわ。何でも学生の方が二人と、たしか木見《きみ》さんとかいう請負師の方と、それから、大宅さんとかいってこの春からお役所へつとめておられる方とが、よく見えたように思います。そして噂によると、その請負師のかたと今の所に同棲しておられたということですわ」
「被害者の懐中より一通の封書と一通の電報とが発見された。封書の差出人は単にO生とあるのみ
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