恐ろしき夜は刻々にふけて行った。二人は無言のまま夜のあけるのを待っていたが、二人とも明けがたになって、うとうととまどろんだ。
五
翌朝、先に床《とこ》をはなれた嘉子は、玄関に投げこんであった××新聞の社会面を見たとき、もう少しで卒倒するところだった。
「昨夜|牛込《うしごめ》山吹町の惨劇」、「被害者は妙齢の美人、犯人の目星つく」という初号活字を交《まじ》えた四段抜き三行の標題《みだし》で次のようなことが記されてあった。
「昨夜《さくや》十一時、牛込区山吹町××番地朝吹光子(二二)は何者かのために胸部を短刀で突き刺されて惨殺されておるのを発見された。所轄××署よりは、直《ただ》ちに数名の警官出張し、警視庁はただちに管下に非常線を張りて犯人厳探中である。臨検の警官は既に有力な証拠品をつかんだらしく、深夜にも拘らず×××署を捜査本部としてある方面に活動を開始した模様であるから、本日中には犯人は逮捕される見込である」
「被害者の屍体を発見した隣家の老婆は語る――光子さんの家では十一時にもなるのに、玄関の戸も居間の襖も開けっぱなしになっているので、あんまり不《ぶ》用心だと思
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