であるが、被害前日の日附にて、『明日《みょうにち》夕方帰りに寄ります』という文句が認《したた》められてあり、用箋には××省の用箋が使用してあった。大正軒女給の言った大宅某と同一人であろうと記者は察する。電報は、名古屋《なごや》駅発信で、発信時刻は当日午前七時二分、受信八時二十分で電文は『キユウヨウアリチユウオウセンニテマツモトヘユキアスアサイイダマチツクキミ』となっている。電文の末尾にあるキミとは請負師の木見のことではなかろうか」
「屍体《したい》にはメリンスの掛布団をかけて一見眠っているように見せかけてあった。兇行の発見を長びかすための犯人の小細工らしい。現場は非常に取り乱され、箪笥《たんす》、鏡台等の抽斗《ひきだし》はのこらずひき出して中味はまぜっかえしてあったが、紛失物もない模様であるからこれ亦《また》強盗の仕わざと見せかけるための犯人の詭計《きけい》らしい」
「同夜、山吹町で履物《はきもの》専門の空巣ねらいが逮捕されたが、同人は、被害者宅にてキッドの赤靴を一足盗んだという奇怪な陳述をしているので取調中である」
新聞の記事は大体以上のようなものであった。嘉子は靴のところを読んだ
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