の脱いだズボンをたたんでいた嘉子は、突然|吃驚《びっくり》して叫んだ。「おズボンに血がついててよ」
「えっ」と血相をかえて大宅は叫んだ。なる程ズボンの膝のところに、まだ生々しい血のりがついていた。あれだけ用心をして来たのに、家へ帰るが早いかこんな大手抜かりを発見されたことは、彼の心をひどく萎縮させた。彼はまごまごしてしまって、血のついたわけを説明する口実を見出すこともできなかった。
「どうしてそんなもんがついたのかなあ、とに角《かく》汚いからよく洗っといておくれよ……それからと、今日誰か訪ねて来なかったかい?」と彼はなるべく自然に話頭《わとう》を転換しようとした。
「ええ別にどなたも……そうそう、そういえば夕方ちょっとお巡《まわ》りさんが来ましたわ」
「何、巡査が?」
「ええ、ずいぶん人の悪いお巡りさんよ。わたしのことをいろいろ根掘り葉掘りきくんですもの」
「どんなことをきいたんだ?」
「………」
「なんてきいたの?」
「御主人とどういう関係ですかなんてね。妾《わたし》返事に困っちゃったわ。だってまだ籍ははいっていないし、姓がちがうから妹だなんて言うわけにもいかないし、仕方がないから親
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