の家庭の一員に加えらるべき子供のことであった。彼はそれを男の児として考えて見る。丸々と肥った健康のシンボルのような嬰児はいつのまにか水兵服をつけた五つ六つの年頃にかわる。妻と二人で両方から手をひいて動物園へつれてゆく。何でもすきな玩具《おもちゃ》を買ってやる。やがて中学の制服を着た姿にかわる。学科も優等でなくちゃいかん。スポーツは野球がよいかな……次には女の児として想像して見る。洋服にしようか、和服が似合うかな。名前は何とつけよう? いや名前などは今から考えちゃいかん。その時のインスピレーションにまかせておかなくちゃ。顔は母に似て丸ぽちゃに相違ない。女学校はどこへ入れようかな。成長《おおき》くなったら音楽家にしようか、それとも画家がよいか知らん。画は日本画と西洋画とどちらがよいか知らんて。琴や生花を仕込んで純粋な日本娘風にしつけるのもわるくはないな……空想の泉は、空から湧いて来る雪と無限を競《あらそ》うて、それからそれへとはてしがない。
三、奇禍
読者諸君、私は、ここで、厳正な第三者として一言述べておきたいことがある。今村のような環境に生き、今村のような人生観をもってい
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