れたことを僕が話したのをおぼえているだろう。あれは、今村の帰宅の時間をおくらせるために浅野が暴漢を雇って殴らせたのだよ。そうしとけば今村のアリバイがたたぬからね。それに証拠は何ものこらない。頭の傷のことを言い出せば、却って小使と格闘した時に受けたのだろうと逆に攻めつけられて藪蛇になるからね。うまくたくんだものだ。こうしておいて浅野はその間に自分で小使を殴り殺して兇器をかくしてしまい、今村が事務所におき忘れていた手袋を屍体のそばにのこしておいて、ちょうどその晩今村が夜勤の番にあたっていたのを幸い、彼に嫌疑を向けようとして、何くわぬ顔で警視庁へ電話をかけたのだ。殺害の原因はしらべて見ねばわからぬが、多分、何か浅野が不正なことをしていたのを小使が知っていたために、生かしておいては危険だとでも思ったのだろう。まあそんなところに相違ない。こういうぼろ会社の社長は不正なことをせぬ方が却って不思議な位だからね。こん度の自殺は、良心の苛責《かしゃく》の結果にきまっている。すべてが関聯しているじゃないか。すっかり辻褄《つじつま》があうじゃないか?」
私は吾ながら、自分の推理が比較的整っていたので得意を
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