寝しずまってから猫いらず自殺をとげたこと、原因は、物質的打撃のために精神に異状を来たしたものらしく、遺書の如きものは見当らぬというようなことが書いてあった。
「これは君が弁論を引き受けている小使殺しのあった会社の社長じゃないか?」
 瀬川は私が記事を読み了《おわ》ったころを見すまして言った。
 私の記憶は、新聞を見た刹那からすでに蘇《よみがえ》って読んでいるうちにも、私の脳細胞は活溌に活動しつづけていたのである。しかもあの事件の公判はもう旬日のうちに迫っていたので、職業意識は極度に緊張して、私の推理と想像の機能を最大限にはたらかせた。記事を読んでしまった時には、私はすっかり謎が解けたような気がした。
「わかった!」
 と私は読み了ると同時に叫んだ。
「こいつが犯人だ!」
「浅野がかい?」瀬川は別段驚きもしないでききかえした。「どうしてだい?」
 私は、咄嗟のうちに頭の中に描かれたプロットを追いながら、話し出した。もっとも、いよいよ話し出して見ると、すっかりわかったように思われたのが、所々曖昧な部分がのこっていることに気がついたが。
「君は、あの晩今村が帰り途で何者かに後ろから殴りつけら
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