《そうかん》が釘を打ちこむような声で言った。「貴様は今村謹太郎に相違ないか?」第二の男が幾らか慄《ふる》えを帯びた声で言った。三人目の男は衣嚢《ポケット》から警察章を出して見せて「吾々は警視庁の刑事だ。すぐに同行するんだ」と言いながら、大事そうにまた警察章を衣嚢へしまった。
 今村は、全身が蒟蒻《こんにゃく》のようにふるえるのを制《おさ》えることも、かくすこともできなかった。第一の打撃でよい加減気を腐らしていた折柄、咄嗟《とっさ》に降って湧いた二度目の更に一層グロテスクな出来事をどう判断してよいか、彼には考えるひまも力もなかった。ただ、理由なしに怖ろしかった。そして、誰も他の人は見ていないに拘《かかわ》らず、彼は、まるで白昼大通りで丸裸にされて侮辱を受けているような侮辱を感じた。細君が家の中から出て来ないのを不審がるよりも前に、この不面目な場面を細君に見られたら大変だという警戒の念が先に起った。
「家内はこのことを知っておるでしょうか?」
 と彼はがたがた慄えながらきいた。
「だまってゆけ」
 と一人の刑事が、無慈悲そのもののような調子で言った。今村の両手はいつのまにか捕縄《とりなわ》
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