不安と恐怖とのどん底へ突き落されたような気持ちがするのである。
彼は世界が急にまっ暗になり、今まで光り輝いていた自分の未来が見る見るその闇の中へ吸いこまれてゆくように思った。
四、拘引
妙な出来事のために不愉快な心を抱いて、今村が自宅の門口にさしかかって来たときである。不意に、まるで雪の中から湧いて出たように、三四人の黒い人影が、ばらばらと彼の面前に現われて、粗暴とも不礼ともいいようのないやりかたで、両方から彼の腕を鷲掴《わしづか》みにした。
自信をもっていた人間が、一たん自信を裏切られると、それから先はひどく臆病になってしまって、何事にも自信がもてなくなる。一種の強迫観念にとらわれてしまって、することなすことが、悉《ことごと》くへま[#「へま」に傍点]の連発になる。勝負事に一度敗け出すととめどなく敗けつづけるような工合である。
今村は、不意に闇の中からあらわれた暴漢の、無法極まる仕打ちに対して、抗議することも何も忘れてしまった。まるでそういう取り扱いを受けるのは当然のことで、自分はそれにさからう資格のない人間ででもあるような気がした。
「静かにしろ」と一人の壮漢
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