たのである。
 エミイル・ゾラがなしたことは、実験的方法の適用範囲を更に一歩拡大したことにほかならぬのである。彼自身は、それを次の如く言ひ表はしてゐる。
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『若し実験的方法によつて肉体生活に関する知識が得られるならば、それによつて情的及び知的生活の知識も得られるに相違ない。化学から生理学へ、生理学から人類学及び社会学へと進んでゆくのは方向の相違ではなくて程度の相違に過ぎない。而してその進路の末端に位するのが実験小説である。』
[#ここで字下げ終わり]
 クロオド・ベルナアルは如何なる論拠に立つて、無生物の研究に用ひられる実験的方法を生物の研究にまで適用しようとするのであるか?
 生物と無生物との相違は、彼によれば前者は自発性 〔Spontane'ite'〕 をもつてゐるといふ点にある。無生物は、普通の外部的環境の中に存在するものであるが、生物体の各要素は所謂内部的環境の中に存在するといふことが両者間の唯一の区別点である。外部環境とは、物理化学がその研究の対象とする環境である。けれども、内部環境も亦物理化学的性質を有し、そこに起る生理現象は、物理化学現象に還元すること
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