はつきりと確立されてゐるのだから、私はこゝではたゞそれを応用しさへすればよいのだ。この決定的な権威ある学者の著書が、私の議論の堅牢な基礎にならんとしてゐるのだ。この書物の中には凡ての問題が取り扱はれてゐるから、私は、たゞその中から必要なる部分を抜粋して、それを否む能はざる論拠としてゆけばよいのだ……大抵の場合に、この書物につかつてある「医学者」と言ふ言葉を「小説家」と言ふ言葉にかへさへすれば私の考へをはつきりさして、それに科学的真理のもつ厳密性を与へることができるのである。』
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 しからば、クロオド・ベルナアルは、『実験医学研究序論』に於てどんなことを述べてゐるのであるかといふと、彼は、当時まで、一の技術であると思はれてゐた医学に実験的方法を適用し、これを技術から科学にかへようとしたのである。実験的方法は、従来無生物に関する学問、即ち、物理学及び化学の研究に用ゐられて偉大なる成果をあげてゐたのであるが、クロオド・ベルナアルは、その方法は無生物の研究のみならず、生物の研究、即ち生理学及び医学にも適用さるべきものであるとして、これを無生物の研究から生物の研究へ拡大し
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