し得ないのである。
 こゝでは、私は専ら、文学の方法論的研究に注目することにしよう。そして過去の人たちが、この方面でどれだけの業績をのこしたかを見逃さないために、この方面に於ける最も偉大なる一人である、エミイル・ゾラの説を紹介しようと思ふ。それは、近代の文学研究の方法に決定的な基礎を与へたものはナチユラリズムであるにかゝはらず、ナチユラリズムの文学理論は、日本には、まだまとまつて紹介されてゐないと思ふからである。私たちは、ナチユラリズムの本質に触れないで、たゞその外貌だけを眺めて通つて来た観があるからである。以下に述べるところのゾラの説は、今では私たちを全く説得するに足る力をもつていないであらう。(さうでないならば私たちの恥辱である!)けれども、極めてイージーにナチユラリズムを卒業して来たと考へてゐる人たちの考へる程、それは鎧袖一触の値しかないものだらうか?

         一

 エミイル・ゾラは、有名な「実験小説論」の冒頭で次のやうにことはつてゐる。
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『実験方法なるものは、クロオド・ベルナアルによりて、「実験医学研究序論」の中で、しつかりと、且つ驚くほど
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