ができる。そこで、外部環境も、内部環境も換言すれば生物界の現象も無生物界の現象も、ひとしく因果関係によりて決定されてゐるといふことになる。それ故に、生物の場合に於ても無生物の場合に於ても、科学的研究の目的、実験的方法の目的は、ある現象を生起せしめる直接の原因を知ること、即ちこの現象がおこるために欠くべからざる条件を明かにすることである。実験科学の目的は、物事が何故[#「何故」に傍点]起るかを知ることではなくて、如何にして[#「如何にして」に傍点]起るかを知ることである。さういふわけで、実験的方法は無生物の研究にのみ限られた方法ではなくて、生物の研究にも用ゐ得る方法であり、これを用ふることによりて、生理学及び医学は真の科学になり得ると彼は主張するのである。

         二

 従来観察といふ方法のみしか用ゐられてゐなかつたやうに見える文学に、実験的方法を用ふることが可能であらうか? これが第一に起つて来る問題である。それには、観察及び実験のといふ言葉の意味を明かにしておく必要がある。
 クロオド・ベルナアルによれば、観察とは、自然に生起するまゝの現象を研究する方法であり、実験とは
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