めて括しつけてある。それに、大きな刃広の鋸と、鉞《まさかり》が一丁、小さな瓢が一つ、括しつけてある。
「ああ人だ!」「人がいる。」と四人は木の上へ馳け上って見た。
老爺だ、六十ばかりの白髪頭《しらがあたま》の老爺が笹の中に長くなって顔を腑伏《うつぶ》せて眠っている。「オーイ、どうした、オーイ。」と声を挙げて呼んで見ると、「ウーム」といいながら身を起す。見ると真紅な顔をして「アー」と大欠呻《おおあくび》をしながら、目を擦《こす》っている。そして「ああ、好い気持で寝てしまったな。」と、両手を長く伸しながら一行の方を見て、「一体、お前様たちゃ、何処から来ただね。」
「何処からって、高山からさ、お前は一体|如何《どう》したんだ、そんな処に寝ていて、吃驚《びっくり》するじゃねえか。」
「なあに、一ぱい引《ひっ》かけて、その元気でやって来ただがね、あんまり好い気持だもんだで、つい寝ちまって……はア……。」
「でも、もう日が暮れるじゃないか、何処まで行くんだえ。」
「なあに、今夜は平湯までさ、明日は信州へ帰るんだ。」
「平湯までだって、まだ大分あるだろう。」
「なあに一里そこそこでさあ、へえこれか
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