木曾御嶽の両面
吉江喬松
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)烈《はげ》しい
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)旧|中仙道《なかせんどう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]
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八月の初旬、信濃の高原は雲の変幻の最も烈《はげ》しい時である。桔梗が原を囲《かこ》む山々の影も時あって暗く、時あって明るく、その緑の色も次第に黒みを帯びて来た。入日の雲が真紅に紫にあるいは黄色に燃えて燦爛《さんらん》の美を尽すのも今だ。この原の奇観の一つに算《かぞ》えられている大旋風の起るのもこの頃である。
曇り日の空に雲は重く、見渡すかぎり緑の色は常よりも濃く、風はやや湿っているが路草に置く露が重いので、まず降る恐れはなかろう。塩尻の停車場から原の南隅の一角を掠《かす》めて木曾路へ這入《はい》って行こうとするのである。道は旧|中仙道《なかせんどう》の大路で極めて平坦である。左手には山が迫り、山の麓には小村
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