賑《にぎや》かな通りが縦横に出来ている。飛騨には大きな鉱山がいくつもあって、その鉱山の関係者が皆東京から来るので、高山の町はなかなか裕福だと聞かされた。何処を通って見ても充実した感じを覚えさせる。
 夜になって雨が降出した。雨の中を傘をさして町を見に行く、廿間もある間口の大きな家が両側にならんでいる町を通る。大通りを横切っていくつかの横町がある。皆賑かに人が通っている。川の岸まで出て見ると、水が一ぱい溢れて流れている。橋の際に柳が立ち並んで、夜の雨で茫《ぼう》っとしている。岸の家々の軒燈籠が水にちらちら写っている。橋の上を若い男の元気の好い声が通って行く、橋の向うには柳のこんもりと茂った中から、ちらちら燈火が見える。その柳の一廓はこの町の廓だ。
 総《す》べてが賑かだ、「小京都」という名前にそむかないと思った。
 書店へ寄ると、土地の絵はがきが出ている。その中に乗鞍岳の全景があった。私はそれを買って帰った。
 群巒《ぐんらん》重々として幾多起伏している上を圧して、雪色の斑《まだら》な乗鞍の連峰が長くわたっている。初秋の空らしい、細い雲がその頂の上を斜めに幾条も走っている。如何にも悠然と
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