して四里高山の町の白壁が遠くに見え出して来た。寺の鐘楼《しょうろう》が高く家々の上に聳《そび》えている。町の響も聞えて来るような気がする。――私は少年の時分、私の家の隠居家に来ていた婆さんのことを思い出だした。信濃へはよく飛騨女が流れて這入って来た、飛騨女は皆色が白く、顔立ちが調《ととの》っている。私の郷里に近い町には廓《くるわ》があって、その廓へは飛騨女が多く来ていた。その婆さんもその廓へ来ていたのが、年老《としと》ってから私の家の隠居家へ雇われていたのであった。暇さえあれば高山の町の話をして聞かせた。照蓮寺の御堂、高山八幡の宮とか、私の胸へは婆さんから聞かせられた幼時の記憶が次第に浮んで来た――物語の国へでも這入って行くような思いがする。
町の入口何処の田舎の町へ行って見てもそうだが、狭い道の両側の家の屋根は低く何処か黒いような影が伴っているようで、荷車、馬、子供、犬などが忙しそうにしているが、妙に寂しい、そして一種の懐しい旅情を覚えさせるものだ。
高山の町は思ったよりも整然と調った這入る者の気を引しまらせるような、生気の充ち充ちた町である。真中に川が流れていて、その川に沿って
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