げて見た。牀板の破れ目から竹の芽が三四寸伸びて出てゐた。或ものは畳に圧せられて、芽の先を平らにひしやげられたやうにして、それでも猶ほ何処かへ出口を求めよう/\と悶えてゐるやうな様をしてゐた。或ものは丁度畳の敷合せを求めてずん/\伸び上らうとしてゐた。
 私は畳を三四枚上げて、牀板《ゆかいた》を剥がして見た。庭から流れ込んだ水が、まだ其処此処にじくじく溜つてゐる中から、ひよろひよろした竹の芽が、彼方にも此方にも一面に伸び出て、牀板に頭をつかえて、恨めしさうに曲つてゐた。水溜の中を蛇のうねつてゐるやうに、太い竹の根が地中を爬《は》つてゐた。日の光が何処からか洩れて、其処まで射し込んで、不思議な色に光つてゐた。
 私は怖ろしくなつた。竹の芽を摘み取るのさへ不気味に思つて、そのまゝ牀板を打ち付けて畳を敷いた。けれど畳の間に出てゐる芽が気になつて、其処へ臥る気にもなれなかつた。牀下の有様を思ふと、その上へ平気で臥てゐる気にもなれなかつた。
 縁さきへその芽は五六寸伸びて、幾本も頭を出した。その頭は家の中を覗き込むやうにした。玄関の土間からはむく/\地を破つて、頭を上げて来た。上げ板などは下から幾
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