五月雨
吉江喬松
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)五月雨《さみだれ》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)うと/\として
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五月雨《さみだれ》が音を立てゝ降りそゝいでゐた。
屋根から伝つて雨樋に落ち、雨樋から庭へ下る流れの喧しい音、庭の花壇も水に浸つてしまひ、門の下から牀《ゆか》下まで一つらに流れとなつて、地皮を洗つて何処へか運んで行く。
夜の闇の中で、雨も真黒い糸となつて落ちて来るやうに思はれる。泥がはね上り、濁水が渦巻いて流れ、空も暗く、何処を見ても果てがつかない。家の中に籠つて電灯の下で、ぢつとその音を聞いてゐても不安が襲つて来る。牀《とこ》を敷いて蒲団の中へもぐり込んでも安眠が出来ない。
うと/\として宵から臥てゐたが、私は妙に不安な気がして眠れなかつた。大地の上を流れてゐる水が、何処か一ヶ所隙を求めて地中へ流れ込んで行つたらば、其処から地上の有りたけの水が滝のやうになつて注ぎ込んで行つたらば、人間の知らずにゐる間に、地球の中が膿んで崩れて不意に落ち込みはしないかといふやうな気がせられた。
と
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