思ふと、また何者かその地中から頭を上げて、地上の動乱の時機に際して、地上を覆つてゐる人間の家屋を、片端から突き倒しでもしはしないか。何ものかの巨きな手が、今私の臥てゐる家の牀下へ伸ばされて、家を揺り動かしてゐるのではあるまいか。
 夢のやうに現のやうに、私ははつと眼が醒めると、たしかに家のゆさ/\揺すぶられたのを感じた。耳を立てると、ごう/\いふ水の音が地中へ流れ込んでゐるやうに思はれた。地中の悶えと、地上の動乱とが、少しも私に安易を与へなかつた。
 さういふ不安が幾晩もつゞいた。
 五六日経つと五月雨が止んだ。重い雲が一重づゝ剥げた。雲切れの間から雨に洗はれた青空が見えて来た。日の光が地上に落ちた。地の肌からは湯気が立ち上る。ぐつたり垂れてゐた草の葉が勢好く頭を上げる。樹々の芽が伸びだした。
 戸障子を開け放つて、雨気の籠つた黴臭い家の中へ日の光を導き入れると、畳の面に、人の足痕のべと/\ついてゐるのも目にはひつた。不図気がついて見ると、畳と畳との間から何か出かゝつてゐるのが目にはひつた。何とも初の間ははつきりしなかつた。傍へよつてよく見ると竹の芽のやうだ。私はぞつとして急いで畳を上
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