はせて、私達は、互に顔を見合せてその一群の後を見送つた。
道とも思へない、草藪の間や砂山の赤禿た上をよぢ登つて、小松原村といふ村へ来た。一面の人だかりで、露店が農家の軒先きに幾つも開かれてゐた。砂ぼこりを浴びた女の姿や、裾をまつ白にした女たちが、うよ/\集つて何か喰べてゐた。競馬のある処は、固く柵を結つて、中央の小松の丘に審判所が出来てゐた。砂塵を巻き上げる風の中を、白や黒の馬が半ば狂したやうに飛び廻つてゐた。
半時間ばかりも見てゐるうちに、日が西に廻つて、冷たさがその光の中を爬《は》ふように広がつて来た。今夜の泊るべき当てもないので、先きの男と分れて、教へられた道を左へ左へと歩いて行つた。
此方の方へも帰つて行く者が断え間なく続いてゐた。小松原からつゞいての村は高塚、その次ぎは伊古部《いこべ》、赤沢《あかざわ》などいふ村々であつた。もう五時近く、竹の林の靡く影が長く地に敷いて、早春の冷たさが身にしみて来る。何処にか泊る家はないかと思つて先きへ行く一群の若い男達に追ひすがつて訊いて見た。
「赤沢には有つたけえど、もうこの先きには無えね。いつそ田原まで行つちやどうだね、俺等も田原の
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