伊良湖の旅
吉江喬松

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)村櫛《むらくし》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)四五日前|篠島《しのじま》へ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)大きな※[#「飮のへん+稻のつくり」、第4水準2−92−68]餅を

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ちぎれ/\に
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

 北から吹く風が冷たく湖上を亙つて来た。浜名湖の波は白く一様に頭を上げて海の方へ逆押しに押し寄せる。
 四月の上旬で、空の雲はちぎれ/\に風に吹かれて四方の山へひらみ附いてゐる。明るい光が空を滑つて湖上に落ち、村櫛《むらくし》、白州、大崎の鼻が低く黒く真向ふに見えてゐる。
 新居《あらゐ》への渡船を待つて弁天島の橋際に立つてゐた。ギイギイ艫の音を立てゝ一艘の小船が橋の下へ湖水の方から逃げ込んで来た。
「新居へ行く船はまだ出ないかね」と声を掛けると、
「さうさね、今そこ
次へ
全29ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
吉江 喬松 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング