へ行つたばかりだがね、二時間ばかりは待たぢやなるめえよ」
「困つたな、何とか他に工夫は無いもんかな」と立つてゐた二人は顔を見合せた。
「一体何処へ行くんだね」と、船首《みよし》の方の男が、棹を立てながらいふ。
「なあに、伊良湖の方へ行くんだがね、新居よりほかに行く途はないかね」
私は風に吹かれて思ふやうにならない地図を皺くちやにしながら、捜《さぐ》りを入れるやうに頭の上から言葉を投げた。二人の船頭は橋杭に船を繋いでゐたが、筒袖に股引をはいて、荒繩をしめてゐた方の男が、不意に飛び上つて来て、私に言つた。
「工風《くふう》の無えこともねえ、私等《わしら》どうせ遊んでゐるで、渡して上げずか。伊良湖なら新居へ行かずに、この先の浜へ着けりや好いだ」
「そりや好い。何処でも行けさへすりや結構だ、渡して呉れるか」
「ぢや、ちよつと待つて、おくんな」
船に残つてゐた一人の男が、船から出て橋を渡つて何処かへ見えなくなつた。
私は又地図を出して、行くさき/″\の様子を訊いた。船頭は太い指を地図の上に出して色々説明して呉れる。
「伊良湖十三里と云つてね、この先の浜伝ひに行きせえすりや、嫌でも行つちまう
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