いついて動かない。船頭は力を入れて無理やり棹で出した。砂洲と砂洲との切れ目は水が浅く流れて、打ち込んで来る海の波と打当つて、その度毎に両岸の砂がかけ落ちる。二人は外套の襟を立てゝ船の中に身を円くしてゐたが、その砂浜の一端へ船が乗りかけて行くと、勢好く立ち上つて、砂地へ飛び下りた。
 見渡すと眼前は一望の砂原だ。処々に小さな砂丘が出来て居て、その一つの蔭に十五六人の漁師等が網を引き合つて、修繕《つくろひ》をしてゐる。風が烈しく吹いてぱら/\、ぱら/\砂山から砂を吹き掛ける。「ほう、ほう」と云ひながら漁師等は、頸を縮めたり、手を振つたりして、その砂を振り払ふが、後から、しつきりなしに降りかゝる、
「ひどい砂だな、埋つて了ひさうだ」と、云ひながら一人の男は砂地から身を起して、一層近く砂山の下へ寄つて行つた。と、その時、ざあつと音がして、一群の砂が、勢好く砂丘の坂から崩れて来て、いま腰をおろした許りの男の上へ降り注いだ。
「やあ」と声を上げたが、見ると、その男は逃げ損ねて、腰から下と、右の半身とはその砂の下になつてしまつた。左手と頭とだけを動かして、抜け出ようとするが動けない。「出して呉れえ」
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