とさらひ》にさらつて行かうとするやうな勢を見せてゐる。
「まるつきり探検者だね、一足滑らしたらもう最後だ」
「困つたな、山を越すことは出来ないでせうか」
「どうして君、まあ来て見たまへ」
 私は岩角から藪の中へ身を入れた。見かけだけは、岩にひらみついてゐる、矮《ひく》い灌木かなにかのやうに思つてゐたのが、中へ入つて見ると、丈の高い熊笹が縦横に入り乱れてゐて、一足でも踏み入れさせまいとする。両手で掻き分けても分かれさうにもない。二人は顔を見合はせて立つてゐた。
 岬の沖をギク/\艪の音がして白帆が一艘、湾内から志摩の国の方をさして出て行く、船中の者はおそらく二人を見付けて笑つてゞもゐるだらうと情なくなつた。行く先の方は、幾重も入江が折れ重なつてゐて、容易に果てさうもない。
 思ひ切つてまた、砂の崩れる岩角を横に伝つて爬《は》ふやうにして進んで行つた。なるべく下を見ないやう、木の根でもあればそれに縋りつき、地へ手を突き込むやうにして通つて行つた。
 向ふの方に砂浜が見える。この先きの方にあたつて海上に山影が浮び出た。曲折した山の懐を一足ごとに注意を払つて、私達が砂浜に降りたのは夫れから一時
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