げ》の藪や、小さな赤松の中を分けて右へ右へと進んで行つた。藪が杜絶えると、下は一面の白ぢやけた砂原で、日が直射して、ギラ/\光つてゐる。砂丘が急な傾斜をして絶えず上から砂を落してゐる。黄枯れた草が浜辺から一面に生えて、砂丘の下へ続いてゐる。荒凉たる砂浜だ。船が一艘水際から遠く引き上げられて砂上に曝されてゐる。
その砂浜を隔てゝ向ふには、短い灌木や、熊笹に覆はれた伊良湖の岬が見えてゐる。
私達はその砂山の横手を砂と共にすべつて水打際まで落ちて来た。浜辺は二つの岬の麓を繋ぎ合はせて、正面は神島と対してゐる。
人一人ゐない此絶端の砂浜を辿つて私達は伊良湖岬の鼻へさしかゝつた。この岬の端が海に沿つて廻つて行けるかどうかと危ふく思つて、岩鼻の上に暫く彳《たたず》んでゐた。見ると、水打際の砂の上に、草鞋の足跡と、犬の足跡とが向ふの方までつゞいてゐる。
「大丈夫だよ君、行けそうだ」。「さうでせうか」
二人は思ひ切つて、此処まで来た次手に伊良湖の絶端を極めようとて歩みだした。最初の内は岩と岩との間を求めて、波の退く暇を待つて、先の足跡をもとめて歩いて行つた。日が次第に西に傾いて、眼前と伊勢湾の
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