言つたきり取り合はない。仕方がないので、深い砂の中をその絶端の下まで辿つて行つた。
 岬の鼻は幾十丈もある巨きな岩が、蛙の蹲《かがま》つて口を開いて居るやうに、太平洋の波浪に向つて、いくらでも波の寄せて来るのを引き受けるとやうに巌として構へてゐる。波は遠く寄せて来てこの岩の下に打り当り、湧き返り、深碧の色をして岩の胴腹を破つて突き込んでゐる。日の光が岩の罅隙《こげき》から洩れて水面へ落ちると、気味悪くギラ/\光つてゐる。ざぶんざぶんと後から後から押しよせて来る波で、先へ来たのは引くに引かれず、岩の中腹へ打ち上る。滝津瀬をなして、打上つた水はざあつと落ちかゝる。退潮の時を見計らつてすばやく馳け抜けたらば廻れないこともなささうだ。が、濡れてゐる岩に足を滑らせたらばそれが最後である。
 引返して岬の頂へ登る径を求めると、砂の崩れ落ちるうねうねした小径が目にはいつた。その径の端にうす紫の蔓岬《つる》[#「蔓岬」はママ]の花がなよ/\と咲いてゐた。私はその花を採つて手帖の間へ挟[#「挟」は底本では「狭」]んだ。
 小径を伝つて岬の頂へ出ると、ぱつとした明るい円やかな天地が目にはいつて来た。地平線
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