て二三人の人影が見えて来た。近づいて見ると、嫁入りの一群らしい人々であつた。黒紋付に絹の股引を穿いた仲人らしい男と、母親かと思はれる年恰好の老女と、外に二三人の荷担ぎの男がついて花嫁自身も手に何か提げて、頭髪飾《かみかざ》りをして歩いて行く。村の子供がぞろ/\後からついてその一行を賑やかにしてゐた。
並木道を出抜けると、前は一面に開けて、空は明るい光に輝いてゐた。雲が白く靡いて陸地の果てを劃して居るやうに思はれる。ちよつと立ち止まつて耳を傾けると、ざぶん/\と波の寄せる音がする。
風は次第に吹き止んで、日は暖くぽか/\と照つて来る。池尻、若見、土田《どた》などの小村を通つて和地《わぢ》まで来たが、何処でも昼飯を食べさせて呉れさうな家は一軒もない。鶏卵を呑んで昼飯に代へて、和地から浜辺へ降りて行つた。
和地の浜は危い岩が乱立してゐる。波が烈しく打当つて来る。その間をくゞつて漁女《あま》等が、甘海苔を岩から掻き落してゐる。腰までも水へ浸して小さな籠へ根気に掻きためてゐる。牡蠣を砂から掘出して来て食べて見ろと云つて連《しき》りに勧めるが、気味が悪くて手が出ない。
「毒ぢやないかえ、え、
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