に跳つてゐる碧《みどり》の波の大きなるうねりを思はせる。陸地の果てといふ感じが強く胸をめぐる。
海へ、海へ、はやく寂しいこんな荒地を抜け出して、その浜辺へ立つて見たい。狂ひ寄せる岸辺の波と、深い静かな物思はせる海と、力強いあの空と水とを劃する一線に深く眺め入つて見たい――車の上で話も出来ないので、私はこんな事を思つて行つた。
二時間ばかりで赤羽根へ着いた。細い道の両側に二三軒づつある家が、大方戸を閉めて、人が居るとも解らない。何処かで火に当てゝ呉れる家はないかと思つて捜したが、何処にも見当らなかつた。重い足を引きずりながら先きへ先きへと歩いて行くと、一軒戸が開いて炉に火が燃えてゐた。二人は前後を考える暇もなく駈け込んで当てゝ貰つた。
「いつもこんなに寒いのかね」と訊くと、「いいえ、こんなことあ寒中でも御座んしねえ、珍らしいことだ」と云ひながら松の葉をどつさり炉へ投げ込んで呉れた。
「宿屋てのは、何処にあるんだね」
火に手を翳しながらS君が訊いた。
「宿屋つて別にねえだが、わしらの処でも頼まれりや御泊めするだあね」
茶を汲みながら[#「ながら」は底本では「ながな」]二十ばかりの男
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