光《ひかげ》が動く。
由三は何時かウト/\してゐた。ホガラ/\した秋の暖さが體に通ツて、何んだか生温《なまぬる》い湯にでも入ツてゐるやうな心地《こゝち》……、幻《うつゝ》から幻へと幻がはてしなく續いて、種々《さま/\》な影が眼前を過ぎる、……只《と》見《み》ると、自分は、ニコライ堂のやうな高い/\塔《たふ》の屋根に登ツて躍《をど》ツたり跳たりしてゐる。其の下に幾百千とも知れぬ顔がウヨ/\して其の狂態を見物してゐる。何《いづ》れも冷笑の顔だ。其に激昂して、いよ/\躍り狂ふ……、かと思ふと、足を踏滑らして眞ツ逆さま!……、落ちたかと思ふと落ちもしない。翼が生えたやうに宙にフワ/\して、何か知ら金色《こんじき》の光がキラ/\と眼の先に煌《きらめ》く。と、其が鋭利な刄《は》物になツて眼の中に突ツ込むで來る。其處で幻が覺めかゝツて、強く腕の痺《しびれ》を感じた。腕を枕にしてゐるからだと氣が付いたが、それでゐて寢返りを打つことも爲《し》なかった。痺れるだけ痺れさせて置く氣だ。指先から肘にかけて感覺も何もなくなった頃に、由三は辛而《やツと》眼を啓けた。
痺れきツた腕を摩りながら、徐《やを》ら起|
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