ツ括めて了ふかと思はれて、耐《たま》らなく家にゐるのが嫌になツて來た。淋しいといふよりは、空乏の感じが針のやうに神經をつゝく。それでも思切ツて家を飛出す踏切もなかツた。
「もう何うすることも出來なくなツて了ツたんぢやないか。」
 圧されてゐるやうな心地だ。ドン底に落ちてゐるといふ悲哀が襲ふ。
濕氣のある庭には、秋の日光が零《こぼ》れて、しツとり[#「しツとり」に傍点]と閃いてゐた。其處には青い草が短く伸びて、肥料も遣らずに放《ほ》ツたらかしてある薔薇と宮城野萩の鉢|植《うえ》とが七八《ななやつ》並んで、薔薇には、小さい花が二三輪淋しく咲いてゐた。隅の方には、葉の細い柿の樹が一本、くの字|形《なり》にひよろりとしてゐる。實《な》らぬ柿の樹だ。其の下に地を掘ツた向ふの家の芥溜が垣根越しに見える。少し離れて臺所も見える。其れも長屋で、褓襁《おしめ》の干してあるのも見えれば、厠も見えて、此方《こツち》では向ふの家の暴露された裏を見せつけられてゐるのであツた。向ふの側にも柿の樹があツて、其には先ツぽの黄色になつた柿が枝もたわゝに實《な》ツてゐた。柿の葉は微《かすか》に戰《そよ》いで、チラ/\と日
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