》や紫の色が洗ひざれてはげちよろけ[#「はげちよろけ」に傍点]て來ても、さして貧乏《びんぼん》くさくならなかつた。
三年ばかり經《た》ツた。叔父の家では、六丁目の或る寺内の下宿屋をそツくり[#「そツくり」に傍点]其のまヽ讓受けて馴れぬ客商賣を始めることになツた。すると綾さんは風呂敷包にした菓子箱を抱込むで毎日のやうに駄菓子を賣りに來た。頭髪は桃割に結ツて、姿の何處かに瘻《やつ》れた世帯の苦勞の影が見えたが、其でも尚だ邸町の娘の風は脱《ぬ》けなかツた。上品ではあツたが、口の利方《ききかた》は老《ま》せた方で、何んでもツベコベと僥舌《しやべ》ツたけれども、調子の好かツた故《せい》か、他《ひと》に嫌はれるやうなことはなかった。加之《それに》擧止《とりなし》がおツとりしてゐたのと、割合《わりあい》に氣さくであツたのと、顔が綺麗だツたのとで、書生さん等《たち》は來る度に、喰はずとも交々《かはる/\》幾らかづゝ菓子を購ツて遺ツた。無論由三も他の小遣を節約して購ツた。そして綾さんは、時とするとゆツくり構込むで種々《いろいろ/\》なことを話す。例へば近頃|些々《ちょく/\》或る西洋畫家の許へモデルに
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