頼まれて行くことや、或るミッションのマダムに可愛がられて、銀の十字架を貰ツたり造花《つくりばな》や西洋菓子を貰ツたりすることや、一家路頭に迷はせるばかりにした麥酒釀造仲間の山師連の憎くてならぬことや、親切にして呉れる近所の奥さん等の心の悦しいことや、然うかと思ふと阿母さんが父に内密で日濟の金を借りて困ツてゐること、其の父が毎日鶯と目白の世話ばかりして、何もせずにブラ/″\してゐるのに困ることなどを其から其へと話しつづけて、さも分別のあるやうに欝込むでゐることなどもあツた。して其の冬には、父は心臓に故障のある體をお邸の夜番に出たと聞いたが、其から間もなく由三は、故郷に歸らなければならぬ事になツて、三年ばかり綾さんを見る機會がなかツた。
四年經ツた。由三は父に死なれて、尚だ廿を越したばかりの年を家の柱となツて、一家殘らず東京に出た。東京ではポツ/\白地を着てゐる人を見受ける頃であツた。先づ叔父の家に落着いて、其となく蓮沼=綾さんの家の姓だ=の家の樣子を聞くと、皆達者でゐるが、相變《あいかは》[#「相變」は底本では「相綾」]らず貧乏で、近頃小さな氷屋を始めて、綾さんは鉛筆を製造する工場の女
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