赤煉瓦の建物、埃に塗された白堊、破れた硝子窓、そして時々耳をつんざくやうに起る破壊的の大響音……由三は其の音其の物象に、一種謂はれぬ不愉快と威壓を感じながら、崩れかツた長い長い土塀に沿ツて小石川の方に歩いた。眞砂町、田町、川勝前から柳町にかけて、其の通には古道具屋が多い。由三は道具屋さへあると、些と覗いて見たり立停ツて見たりする癖がある。別に購ふ氣もないが、値段《ねだん》づけてもしてあると其も見る。カン/\日の照付るのを嫌ツて、由三は何時か日の昃ツた側を歩いてゐた。
 フト小さな古道具屋の前で立停ツた。是と目に付く程の物もない、がらくた物[#「がらくた物」に傍点]ばかりコテ/\並べ立てた店である。前通には皿や鉢や土瓶やドンブリや、何れも疵《きず》物の瀬戸類が埃に塗れて白くなつてゐた。漆の剥げた椀も見える。其の薄暗《うすぐら》い奥の方に金椽の額《がく》が一枚、鈍[#「鈍」は底本では「鋭」]《にぶ》い光を放《はな》ツてゐた。紫の羽織を着た十五六の娘の肖像畫だ。描寫も色彩も舊式の油繪で、紫の色もボケたやうになつて見えたが、何か熟《じツ》と仰ぎ見てゐるやうな眼だけは活々《いき/\》としてゐた。
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