の中《なか》を些《ちよつ》と古本屋の前に立停ツたり、小間物店や呉服店をチラと覗《のぞ》いて見たりして、毎《いつも》のやうに日影町《ひかげちよう》から春木町に出る。二三軒雑誌を素見《ひや》かして、中央會堂の少し先《さき》から本郷座の方に曲ツた。何んといふことはなかツたがウソ/\と本郷座の廣ツ場に入ツて見た。閉場中だ。がもう三四日で開《あ》くといふことで、立看板も出て居れば、木戸のところに來る××日開場といふビラも出てゐた。茶屋の前にはチラ/\光ツてゐる俥が十二三臺も駢んで何んとなく景氣づいてゐた。由三は何か此う別天地の空氣にでも觸れたやうな感じがして、些《ちよつ》と氣が浮《うは》ついた。またウソ/\と引返して電車|路《みち》に出る。ヤンワリと風が吹出した。埃が輕く立つ。
何處といふ的《あて》もなく歩いて見る氣で、小さな時計臺の下から大横町《おほよこちよう》に曲ツて、フト思出して、通りから引込むだ肉屋で肉を購ツた。そして其の通を眞ツ直に壱岐殿坂[#「壱岐殿坂」は底本では「壹岐殿坂」]を下ツて砲兵工廠の傍に出た。明い空に渦巻き登る煤煙、スク/\と立つ煙突、トタン屋根の列車式の工場、黒ずむだ
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