目に付いた。晝でも薄暗い路だ。片側の墓場は大きなペンキ塗の西洋館で切れる。眞言宗中學林の校舎だ。洋服を着た徒弟等が十五六人、運動場に出て盛にテニスをやツ[#「やツ」に傍点]てゐた。
間もなく路は明くなツて千駄木町[#「千駄木町」は底本では「千黙木町」]になる。其から一家の冬仕度に就いて考へたり、頭の底の動揺や不安に就いて考へたり、書かうと思ふ題材に就いて考へたりして、何時か高等學校の坡《どて》のところまで來た。また墓場と寺がある……、フト、ぐうたら[#「ぐうたら」に傍点]なる生活状態の危險を思ツて慄然《ぞツ》とした。
坡《どて》について曲る。少し行くと追分の通《とほり》だ。都會の響がガヤ/″\と耳に響いて、卒倒でもしさうな心持になる……何んだか氣がワク/\して、妄《やたら》と人に突當《つきあた》りさうだ。板橋|通《がよひ》のがたくり[#「がたくり」に傍点]馬車が辻《つじ》を曲りかけてけたゝましく鈴《べる》を鳴らしてゐた。俥、荷車、荷馬車、其が三方から集ツて來て、此處で些《ちよつ》と停滞する。由三は此の關《くわん》門を通り抜けて、森川町から本郷通りへブラリ/″\進む。雑踏《ひとごみ》
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